冬の台所にやさしい緑 ― のぼう菜との出会い
冬が深まり、空気が乾く頃になると、
店先にしっかりとした緑が目に入ってきます。
その名は「のらぼう菜」。
昔ながらの食卓を支えてきた素朴な菜っ葉です。
スーパーでは見かけなくなりました。(気がついてないだけかしら?)
私は農家から送っていただくお野菜に入っていたので知りました。
七十二候でいえば、「雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)」のころ。
大地はまだ眠っているように静かでも、
土の下では春の準備が密かに始まっている——
そんな時期に収穫される菜は、どこか力強く感じられます。
のらぼう菜とは
地方での呼び名と由来
のらぼう菜は、野沢菜の系統とされるアブラナ科の葉物です。
地方ごとに呼び名が異なり、
“野(の)の坊さんが食べた菜” “畑の菜っ葉”
そんな意味合いから名がついたという説もあります。
見た目と特徴
見た目は青々としていて、べか菜よりややしっかり。
火を入れると繊維が心地よく残り、
噛むほどに青菜らしい香りが立ちのぼります。
漬けて守る、煮て親しむ ― 暮らしの味方
漬物の楽しみ方
“冬の青菜は漬けておく”
そんな文化があった時代から台所にあったのが、こういう菜っ葉。
のぼう菜の漬物は、白いごはんに寄り添うために生まれたような味です。
炒め煮や味噌汁の魅力
炒め煮や味噌汁にすれば、噛むごとに旨みがにじみ、
油や味噌とも相性がよく、
台所の「足し算しない安心感」を感じさせてくれます。
冬の体を整える栄養
β-カロテン・ビタミンC
- 抗酸化作用で肌や粘膜を守る
- 冬に不足しがちなビタミンCも摂れる
カルシウム・鉄・食物繊維
- 骨や血液の健康をサポート
- 食物繊維で腸内環境を整える
季節柄、体も縮こまりやすく免疫がゆらぎがちな時期。
温かい汁物にのぼう菜をひとにぎり加えるだけで、
体に“冬に負けない支度”が一つ整う気がします。
のらぼう菜の簡単レシピ
油揚げと炒め煮
作り方
- のらぼう菜は3〜4cmに切る
- ごま油で軽く炒め、だし・醤油少々でさっと煮る
- 油揚げを入れて一呼吸おく
ひと言メモ
油が入ると青菜の甘さがふっと出て、「ごはんを呼ぶ味」になります。
味噌汁
作り方
- 湯を沸かし、いつもの味噌汁の手順で
- 仕上げ直前に のぼう菜をひとつかみ入れる
- 火を止めて余熱で火を通す
ひと言メモ
しっかり煮込まないことで、青菜の香りが生きます。
冬の朝にこれ一杯あると背すじが伸びます。
さっと塩漬け
作り方
- のらぼう菜を刻み、塩をふって軽くもむ
- 皿などで重しをして冷蔵庫へ
- 翌朝、水気を切って完成(好みで醤油一滴)
ひと言メモ
朝に「ひとつでも用意済みのおかず」があると、一日が少し整います。
暮らしに寄り添う小さな安心
冬の台所は、火を使う時間が少し長くなります。
湯気が立ちのぼる鍋のそばに立っていると、
外の冷たさとは別のところで体がほどけていくのを感じます。
のらぼう菜は、その湯気の中に自然と登場する野菜です。
決して「特別な料理のため」ではないけれど、
ただ置いておくと台所が落ち着く存在。
漬けておけば翌日の自分を助けてくれ、
汁ものにひとつかみ入れれば今日を少し整えてくれる。
季節に寄り添って生きるというのは、
こうした“小さな味方”を静かに抱えて暮らすことなのかもしれません。
おわりに ― 季節とともに食べるということ
のらぼう菜を食べるたびに思うのは、
「旬のものを、その季節の体で受け取る」という
昔から続いてきた当たり前のリズムの心強さです。
何も大きく変えようとしなくても、
冬には冬の野菜が、ちゃんと冬の体を支えてくれる。
その静かな確かさに触れるたび、
台所に立つことが少し好きになります。


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